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「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績に関する考察 ~デット警察の巡回連絡~
皆さん、こんにちは。
デットをデッドとタイプミスしていませんか?
巡回パトロール中、2025年1月31日に、半年毎に金融庁から公開される「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績(個別行の実績)から、2024年4月~9月における最新のデータが公表されたことを発見しました。
本件は上記最新データを踏まえた「考察」記事となります。
経営者保証とは
経営者保証とは「中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となること」を指します。 平たく言うと、企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済する義務を負うことになります。
経営者保証は「保証」の一種で、経営者以外が保証人になる場合もあります。また、借り手が返済能力を証明するための手段としては、他に「担保」があり、返済できなくなった場合に備えて、金融機関に対し特定の資産(不動産や有価証券など)を差し出すことで、借入金の返済に充当します。企業に担保として差し出せる資産があればいいのですが、スタートアップの場合は該当資産がなく、経営者保証を求められる、ということになりがちです。
経営者保証には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もあります。
特にスタートアップにおいて「経営者による思い切った事業展開」の妨げになるというのは避けるべきですので、経営者保証は極力外したほうがいいと考えています。
経営者保証に関するガイドラインの制定
これらの課題の解決策として、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を制定し、中小企業への融資について、合理的な保証契約のあり方を示すとともに、保証履行時の保証債務の整理手続や経営者の経営責任の在り方、残存財産の範囲についてのルールを示しました。
平成26年2月1日より適用が開始され、法的拘束力はないものの、中小企業・経営者・金融機関が自発的に尊重し、遵守することが期待されてきました。
また、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させるため、金融庁・財務省とも連携の下、①スタートアップ・創業、②民間金融機関による融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンス、の4分野に重点的に取り組む経営者保証改革プログラムを策定しています。
経営者保証に関するガイドラインの効果
経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は、金融機関に委ねられてきたのですが、金融庁の主要行等及び地域銀行の「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績等について(個別行の実績及び取組方針の公表状況)に基づき、金融機関の経営者保証に対するトレンドや、特徴的な金融機関の姿勢につき考察してみます。
各金融機関の財務状況や顧客基盤によって大きく左右される側面があるとは思うのですが、そういったデータを組み合わせての分析は行っておらず、あくまで筆者(坂本)個人の私見レベルの考察である点はお含み置きください。
各金融機関における過去5年間の新規融資(4~9月の上期ベース)において、経営者保証を外している件数の割合を時系列で表記していきます。公開情報は割合のみで、件数自体も、金額も非公開です。
全体平均だと、2020年度には32.7%、つまり新規融資件数3件のうち2件程度につき経営者保証が求められていたのが、2024年度には60.8%まで上昇しています。
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新規融資のうち半分以上が経営者保証がつかないという状態になっており、経営者保証に関するガイドラインの効果が確実に出ていると言えるでしょう。
メガバンク3行+りそな銀行における考察
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経営者保証を外している件数の割合だと、三井住友銀行が頭1つ抜けている印象があります。また、5年間で比率が最も上昇したのはりそな銀行で、2020年はメガバンク3行よりも低かった(35.4%)にも関わらず、2024年には三菱UFJ銀行と同水準(63.1%)となっています。
地方銀行各行における考察
地銀はなんと、100行分のデータがあります。
まずは最初の30行です。
気になった箇所を赤文字でハイライトしてあります。
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みちのく銀行は2024年度では新規融資において、経営者保証を外している件数の割合が最低の37.9%なのですが、背景を知るには以下の記事が参考になります。
みちのく銀行の場合、全融資先のうち、経営者保証ガイドラインを活用したものが4.1%でした。これに対し、青森銀行は12.0%と、大きく差が出ています。あくまで公表された取り組み状況だけで判断すれば、青森銀行の方が、経営者に優しい銀行といえそうです。
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特徴が分かりやすい評価項目の取り組み状況として、創業期・成長期・安定期・低迷期・再生期といった企業のライフステージごとの融資支援があります。たとえば青森銀行の場合、融資先の大半が、安定期の企業です。創業期・成長期の企業への融資残高は851億円で、融資全体に占める割合は11%となっています。
一方、みちのく銀行は創業期・成長期の企業への融資残高は1,218億円で、融資全体に占める割合は16%です。
この取り組み状況を分析すると、みちのく銀行は経営者の個人保証を重要視するものの、ベンチャー企業には積極的に融資していこうという姿勢が見て取れます。また、青森銀行は、経営者の個人保証を外すことには積極的な分、ベンチャー企業に対する審査は厳しいとも分析できます。
また、東日本銀行は2020年から2024年にかけての変化率が+68.3%と最大です。経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針を策定し、その中でお客さまのご意向も踏まえたうえで、原則として経営者保証を求めない、と宣言しています。
次の35行です。
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東京スター銀行は、2024年度では新規融資において、経営者保証を外している件数の割合は93.2%と、非常に高い水準になっています。2020年時点からそこまで変化はなく、元々高水準であることが見て取れます。
東京スター銀行は2013年より台湾の中国信託商業銀行 (CTBC) グループ入りしており、実は外資系銀行で、中小企業融資に特に注力していることが特徴です。
次がラストの35行です。
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以上です。佐賀共栄銀行は2020年から2024年の変化率で唯一マイナスとなりました。
まとめ
過去5年のデータを見る限り、経営者保証に関するガイドラインの効果は確実に出ている
一方で、各金融機関の経営者保証に対するスタンスの変化にはばらつきがありそう
といったところでしょうか。
「考察」という表現に留めたのは、経営者保証の有無は件数だけでなく金額にも左右されると思われますがそのデータもなく、繰り返しになりますが、各金融機関のスタンスについても財務情報や顧客基盤も含めて調べてみないと分からないという中で「分析」と表題を付けるのは難しいと感じたからです。
この点をご留意の上、皆様が融資を検討する上で参考になれば幸いです。
また、重ねてになりますがデットと「デッド」とタイプミスしないように気を付けてください。
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