フェムトマガジン(元isologue)(第638号) 上場前後の資本政策(2021年6月その3)

フェムトマガジン(元isologue)(第638号) 上場前後の資本政策(2021年6月その3)

今週も、2021年6月に上場した会社の資本政策を見てみますが、その前に。

先日、「進め!電波少年」などで有名な日本テレビの土屋プロデューサーが、非常に興味深い内容のnoteの記事を書いておられました。

「報連相は会社を滅ぼす」
https://note.com/t_shacho/n/n978028f372e8

「報連相が会社を滅ぼす」…とまでは言えないかもしれませんが、記事に書かれている通り「報連相がイノベーションを阻害する」のは間違いないと思いますし、なぜそうなるかのメカニズムが、非常にわかりやすく書かれていると思います。

よく考えてみると、イノベーションの最先端であるスタートアップへの株式での投資とは、そもそも、「この報連相を断ち切る仕組み」です。

株式で投資をすると、(未上場の場合には、株主間契約等で、一定の重要事項について、事前承認や報告が必要とされるのが一般的ですが)、基本は、法律で決められたこと以外のことは、株主に報告する必要もないし、(少数)株主は単独で何かを決める権限もありません。(注:ベンチャー投資では通常、1つの投資家が50%超を持つといったことは、あまり行われないです。) その代わり、株主も出資額までの責任しか負わない「有限責任」の仕組みが、今から400年以上前の東インド会社の時代に発明されたわけです。

そういう、細々と報告をしたりされたりしない、「独立した」状態を目指すことが、まさにスタートアップなのですが、そこを十分に理解されてないスタートアップの経営者や投資家が、非常に多くいらっしゃるんじゃないかと思います。

「株主を上司だと思って、指示を待ってしまう」、「重要なことを自分で決めずに、社外取締役や株主に決めてもらおうとする」。そして、自分の意見が認められないと「わかってくれないんだよなー」とグチる。そういうのを拝見すると、「あれ、サラリーマンと違う方向を目指すために起業したんじゃなかったのかな?」と思ってしまうのですが、いずれにせよ、気持ちがそういう状態にある経営者がイノベーションを起こせるわけもありません。

事業会社も(たまにベンチャーキャピタリストも)、せっかく「断ち切る仕組み」としてのオープンイノベーションなり投資なりをやろうとしたはずなのに、結局、昔から関係会社をコントロールするノリと同じように、一つ一つの事に口を出したり、「上に諮るので少し待って」という鎖に、スタートアップを縛りつけようとしてしまいます。

そして、これらはすべて、それぞれの人が悪人だからそうなっているわけではなく、極めて優秀で善意に満ちた人たちが集まって、そうしたことになっているケースが非常に多い。「地獄への道は善意で舗装されている」のです。「相談しない」より「相談する」の方が、真面目で正しいことのように思えますよね。

人間は本能的にリスクに対する不安があるので、リスクを取って企業価値を最大化する合理的な方策を必ずしもうまく選択できません。だからこそ、有限責任の株式や、リスク分散のためのファンドという仕組み、ストックオプションというアップサイドしかないインセンティブなどが発明され、この30年で、そうした「明るい未来をクローズアップする仕組み」を導入した企業(すなわち元スタートアップ)が、GAFAをはじめ、世界の企業価値上位50社の大半を占め、ベンチャーキャピタルが投資してきた会社が、今や世界のGDPの2割を生み出しているのです。(そうしたことに遅れをとった日本が、GDP2割分(100兆円規模)の損をしている、と言ってもいいと思います。)

もちろん「報連相をしない」というのは、「全く株主と口を聞かない」「しゃべっちゃダメだ」という話ではないです。
逆に、IR=Investor Relationsというのは、スタートアップにおいても極めて重要です。上記の土屋プロデューサーも、「上司と全く口を聞かない」というわけではなく、むしろその逆ではなかったかと思いますし、そしてその際の会話は、仕事のやり方の相談や連絡ではなく、「彼に任せておいても大丈夫だ」という「信頼を獲得するためのコミュニケーション」だったんじゃないかなと想像します。

「投資とは、信じて任せる仕組みである」とも言えますが、信頼されるためには、多くの経営者が想像する以上に「まかせて大丈夫な優秀な経営チームが存在すること」が重要であり、創業者一人が思いつきで決めてるのかもしれない状態では、そもそも信頼してもらえるはずがないのです。

信じてもらうためには、投資家の「期待値コントロール(Expectation Control)」「演出」も重要です。
スタートアップは、全部のことを細々ダラダラ報告すると、必ずや信頼を失う「宿命」になっているのです。なぜかというと、誰もやったことがないことにチャレンジするので、やることすべてが成功するわけがないからです。10回トライして9回失敗するのを、最初から「今度こんなことやろうと思うんですけどー」と全部細々相談・報告していたら、「あー、あいつまた失敗しやがった…」「そんなことやってなんの意味があるの?」ということに必ずやなるからです。

「ウソを言え」と言っているわけではありません。株式というのは「失敗できるための資金」なのですから、「いくらなんでもここまでやれば、これだけの成果が出せるだろう」という十分な資金をちゃんと調達し、その枠の中で、経営陣で脳汁を絞り出してリスク・リターンを考え、資金の範囲でさまざまなチャレンジをしておいて、10個目のトライが大成功した時に、涼しい顔で「ほら成功したでしょ」と、ポジティブなサプライズを入れるのがうまいやり方です。

そしてそれができるのは自信の裏返しでもあります。自信がない人は、「報告せずにやって全部が失敗に終わったら、後で怒られるんじゃないか」と思ってしまうからです。

CEOの仕事は、「事業を作り上げること」「売上をあげること」だと思ってる(真面目な)経営者は多いです。スタートアップが調達できる資金が、せいぜい数千万円の時は確かにそうでした。(人1人か2人を1年間雇えるくらいの給料分でしかなかったわけですから)、社長が先陣を切って全部のことをやらないと会社なんか回るものではなかった。

しかし今や、本当にすごいことをきちんと説明すれば、10億円、100億円の資金を出資してもらえる時代ですし、その資金で(少なくともマーケやCSといった個別の機能では)創業者よりはるかに経験のある優秀な人材を経営幹部として呼べる時代なのです。CEOの仕事は、この30年で、「投資家、顧客や従業員などの全ステークホルダーに、自分が考える未来を、確実に実現することができると信頼してもらえるようにすること」「そのための経営チームを作り上げること」に、変化してきたと思ってます。


さて、雑談が長くなりましたが、以下本題。

今週は、

アイドマ・ホールディングス
ドリームベッド
アルマード

の3社を見てみます。

ご興味がありましたら、下記のリンクからご覧ください。

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