週刊isologue(第542号)海外オファリングの研究(その1)
最近は、IPO時に海外の機関投資家にオファリングをする(投資してもらう)ベンチャー企業もいくつか現れてきました。
従来の日本のスタートアップというと、上場後で時価総額数十億円から100億円くらいの企業で、オファリングサイズ(公募+売出し等の合計)も数億円から十数億円といった規模のIPOが多かったかと思います。
こうした企業がIPO時に海外でオファリングをできるかどうかは、「CFOが英語ができるかどうか?」という問題じゃありません。海外の投資家へのオファリングを準備するとなると、弁護士費用だけで数億円にもなり(「数億円の資金調達するのに、コストが数億円かかる」ということだと、手元にほとんど資金が残りませんので)、その規模の上場だと、海外オファリングはファイナンスとして割りに合わなかった、ということになります。
しかし、最近では、メルカリやラクスル、Sansanなど、日本のスタートアップも上場時に海外の投資家にもオファリングするようになってきました。
ちなみに、メルカリは、米国のRule 144Aに従い、米国の適格機関投資家をはじめ世界全体にオファリングをする、いわゆる「グローバル・オファリング」、
ラクスルは米国を除くアジアやヨーロッパなどの世界にオファリングをする(日本で言うところの)「旧臨報方式」です。
前述のコスト面も含め、もちろん、なんでもかんでも「海外の方がエラい」という訳ではないのですが、機関投資家のスコープを海外に広げることで、企業価値(valuation)も、より長期に考えて高い価値で考えてくれる投資家に出会えたり、その投資家が長期的に自社の株式を買い増して行ってくれて、上場後の安定した株価形成に資する可能性もあります。今後、本格派スタートアップで、500億円とか、1000億円、4000億円、1兆円といった企業価値で上場する企業が増えてくると、世界を見据えて、上場後の株主構成をデザインする必要も出てきます。
また、製品やサービスで国境を越えるのは、実際非常に大変です。「日本人が英語ができないから国境が超えられない」という話だけではなく、米国のテック企業ですら(Yahoo!をはじめ)必ずしも「世界どこへ行っても必ず成功する」というわけではないわけです。
これに対して、自社の株を世界で売るのは、はるかに少数精鋭で可能です。加えて、日本にも(今まで資金調達額が数千万円、といった時代には、なかなかそういう人材にスタートアップに来てもらうのは難しかったわけですが)グローバルに活躍している優秀な人材はたくさんいるんです。実際、メルカリやラクスル、Sansanなどは、外資系金融や商社など、グローバルな目線を持った人材がCFOとして参画されて、世界でのオファリングに成功しています。
また、世界の並み居る企業を前提とした質問をぶつけてくる海外機関投資家と接することで、CEO・CFOの目線も世界レベルに伍していくことになるんではないでしょうか。
ということで、このシリーズでは、各社の開示資料などをもとに、海外オファリングがどういう感じで行われているのか、考えていきたいと思います。
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