フェムトパートナーズ メンバーインタビュー③ 投資銀行から農家、CFO、そしてキャピタリストへ
留学先の「M&A体験」から投資銀行へ
磯崎(聞き手) 坂本さんは智辯学園和歌山高校の出身ですよね?智辯和歌山って、「野球の強い学校」ってイメージだと思いますが、進学校でもあるんですよね?
坂本 はい。進学校で、公式なクラブ活動が野球部と応援団の二つしかないんです。私は応援団の方で、私の代は夏の甲子園を制覇しています。卒業生はやはり関西方面に進学することが多いので、東京で同窓会をやると、有名プロ野球選手が多かったりするという(笑)
私は東京の大学に進学したのですが、ちょうど就職氷河期で、「自分には何にも武器がないな」と思い、アメリカに1年留学して、これがキャリアを考える大きな転機になりました。
磯崎 アメリカ国内でインターンもしたんですよね?
坂本 はい。どうせなら日本より進んでいる領域がいいなということで、投資銀行でインターンすることにしました。
留学先で日本人サークルを立ち上げたものの、「日本人だけでつるんでいてもしょうがない」と思い、他の国のエスニックサークルも統合していき活動を拡大していました。インターン先の投資銀行の上司にその話をしたら、「世の中には、会社を統合する『M&A』という仕事があるよ」 と言われて、それじゃあM&Aを仕事にしようかなって思いました。
磯崎 就職先はどうやって選んだんですか?
坂本 外資系投資銀行は採用の締め切りが早いので、私が日本に帰ってきた時はもう採用が全部終わってしまってたんです。結果として、日系で最初から投資銀行部門に配属させて貰える大和証券SMBCに入り、念願叶ってM&Aアドバイザリーの部署で働くことになりました。
「おまえ英語しゃべれるだろ」ということでクロスボーダーのM&Aをやる部署になったんですが、最初は業務自体もわからないですし、かつ英語なので、初めの1年くらいは本当に苦労しました。
その後、ドイチェバンク(ドイツ銀行)に転職しましたが、その後にリーマンショックが来まして。そのころアメリカから進出してきたのが、グリーンヒル(Greenhill & Co.)というM&Aのブティックファームです。「日本でもバンカー(投資銀行の社員)がどんどんクビになっていて、人材が採用し放題だから、進出するなら今だ!」というのが進出理由だったようです。私も、グリーンヒルの東京オフィス立ち上げメンバーとして参画しました。
磯崎 なるほど、M&Aのアドバイザリーは人のクオリティが命だから、そのタイミングを見逃さない進出は頭いいですね。
坂本 グリーンヒルは日本の投資銀行界の大物の2人を中心に日本法人を立ち上げ、私は、その法人の登記が終わったくらいのタイミングでジョインしました。
グリーンヒル時代は非常に忙しかったです。もちろん本業のM&Aアドバイザリー業務もやるんですけど、立ち上げ期なのでバックオフィスなどその他ありとあらゆる業務もやることになりまして。最初にオフィス行ったら、インターネットに繋がったパソコンはあるけど、Bloombergも何も入ってなくて、そうした契約をするところからって感じでした。
磯崎 私も過去何社かでやったのですが、立ち上げ期のそういう雑務的なことって、なんか「オレは今、会社立ち上げてるんだ!」ってワクワク感がありますよね!
もちろん重要なのは、会社の戦略とかビジネスモデルとか、そういう根幹のところなんですが、最初に会社の実印作ったり、LANケーブルとか引いたりしてると、なんかアドレナリンが出る(笑)
法人の立ち上げやバックオフィス周りも好きだという坂本さんの特性は、その辺にルーツがあるってことですね。
坂本 そうです。法人として必要なものって何があるんだ?といったことはそこで一通りやりました。
加えて、当時は優秀な人がたくさんレイオフになってましたので、そういう人たちに声をかけて、急速にチームビルディングもしていきました。
磯崎 そこで、楽しくやっていたのに、その次は?
坂本 その頃、建築士を引退して兼業農家になった親父が病気になってしまって実家が大変になり、会社を退職して和歌山に帰ることになりました。
そこで行ったことは、農業経営の「ターンアラウンド」(立て直し)です。
幼い頃から専業農家であった祖父の手伝いをしていたので、その頃のことを思い出しながら、リスク/リターンの高い「果樹」から、そこまで手間がかからない「野菜」にポートフォリオを戻したり、需要が安定的に見込めて、粗利率も上がるように、地元スーパーマーケットとダイレクトに契約したり。
磯崎 「農業のこともわかるベンチャーキャピタリスト」って、なかなかいないですよね!
坂本 はい。で、農業の立て直しも一通り落ち着いて、そろそろ東京で新しいチャレンジをしたいという思いがあり、シンクタンクである三菱UFJリサーチ&コンサルティングのFAS(Financial Advisory Service)部門立ち上げに参画させて頂くことになりました。
同社のFAS部門は当時名古屋が中心で、新幹線に乗って行ってたんでは東京の案件に対応し切れないということで、私が東京のヘッドをやらせていただいたのですが、これまで手がけていた大型のクロスボーダー案件やプライベートエクイティ向け案件とは異なり、中型の上場企業案件や地方の事業承継案件やグループ内組織再編案件などが中心でした。
こちらの立ち上げもうまくいきまして、チームとして安定してきた時に、たまたま大和証券SMBCの同期で寮が一緒だったクラウドクレジット社の杉山CEOと再会しました。色々相談に乗ってるうちに「うちに来ないか」という話になり、スタートアップのCFOをやることになりました。
磯崎 クラウドクレジット社(経営統合して、現在バンカーズ・ホールディング社)は、我々フェムトの投資先だったんですが、坂本さんがCFOになって、会社の経営がすごく安定したんですよね。その節は、大変お世話になりました。
スタートアップ界隈で成功する要素は?
坂本 現在newmo代表の青柳さん(元グリーCFO)を源流に、当時は、マネーフォワードの金坂さんやラクスルの永見さんをはじめ、「投資銀行出身者がスタートアップで活躍する」という流れが盛り上がっていた時期でした。
しかし、私と同時期に投資銀行出身の人たちが何十人とスタートアップに行ったんですが、残ってる人はほとんどいないですね。今思えば、「投資銀行出身者がスタートアップで大活躍できる」っていうのは、かなり「生存者バイアス」だったんじゃないかと。
磯崎 なるほど。当時、投資銀行出身のみなさんがスタートアップに来てくれて、「昔だったら、こんな優秀な人たちがスタートアップに来るなんて考えられなかった。すごい時代になったもんだ!」と思ったもんでしたが、投資銀行出身者だからといって、必ずスタートアップで成功するというわけではないってことですね。
では、スタートアップに向いている投資銀行の人って、どんな人なんでしょう?
坂本 そうですね。ファイナンスも上場企業や大企業のものとは違いますし、ファイナンス以外のほうがやるべきこと・学ぶべきことが多いです。
私がCFOをやってよかったなと思ったのは、自分が調達してきた資金や自分がやったことで、組織が良くなっていくのを見られたことです。その過程では、いわゆる「HARD THINGS」も非常にたくさん起こるのですが、そこを乗り越えるのを楽しいと思えるかどうかというのが、スタートアップ界隈に残るかどうかの分水嶺になるんじゃないか、と思います。
フェムトの投資スタイルに惹かれて転職
磯崎 その後、メディフォンのCFOを経てフェムトに転職したわけですが、フェムトを選んでくれたというのは、どういう理由だったんですか?
坂本 スタートアップのCFOをそれなりに長くやってると、いろんなスタートアップから資本政策の相談を受けるんです。
ミドル・レイターのフェーズの資本政策のお話が多かったですが、話を聞いてみると、やはり、シードとかアーリーの初期の段階で既に資本政策をミスってるケースが多いんですよね。
そのイメージが一般には薄いかもですが、フェムトはシードやアーリーからの投資が基本です。そして、資本政策をよく考え、次のマイルストーンまで行ける億円単位の大型の資金を投下します。
フェムトが投資した次のラウンドの資金調達成功率は今までのところ100%ですが、日本のスタートアップ全体を見回してみると、資金供給量が足りなくて初期の段階で会社が立ち行かなくなるところもすごく多いですよね。
なので、いろんな会社にたくさん少額の投資をするスタイルのVCよりは、初期の段階で一社一社に適切な資本政策を考えて、億円単位の資金を投資し、ハンズオン支援を行うフェムトのスタイルの方が、元々私がスタートアップで経営者をやっていた経験が生きるだろう、ということがありました。
「VCという業種」を選んだ、というよりは、「スタートアップを成長させるために、どうすればいいのか」と考えた時に、フェムトの投資スタイルが近かったということです。
磯崎 いいお言葉、いただきました(笑)実際、元投資先の人にそれだけ評価してもらえて、転職までして来てくれるというのは、ありがたいお話です。
では次に、坂本さんの現在のフェムトでの業務について教えてもらえますか?
「起業のファイナンス」は知られてるのに、フェムトの知名度は低い!!
坂本 フェムトのいいところとして、すごく自由というか、「やりたい!」と手を挙げれば何でもやらしてもらえるので、投資先やその候補である起業家の人たちと会うフロント業務はもちろん、セミナーや広報、採用などあらゆることをやってます。フェムト自体がまだ少人数でスタートアップ的なので、「専門家としてこの範囲だけやってろ」ではなく、いろいろできるのが楽しいです。
現在ちょうどフェムトの4号ファンドのファンドレイズ(調達)を始めてますが、投資家から資金調達して新たなファンドを組成するという機会は、数年に一回しか回ってこないイベントじゃないですか。ラッキーだなと思いました。
ファンドの組成は、独立系VCをやっていく上で必須のアクションですし、投資をして回収するためのお金を集めるというVC業務のプロセスの一番初めのところを、3号ファンドまでの実績でレバレッジしながらやれるっていうのはすごくやりがいがありますね。
また、私は一番初めにクラウドクレジットのCFOをやった時の株主がフェムトだったんでバイアスがかかっていて、「フェムトって、めっちゃ有名なんだろう」って思ってたんです。
しかし、その後、スタートアップ界隈の皆さんは「起業のファイナンス」はほぼ全員知っているのに、フェムトの人が書いてるんだということは知らないっていう。
それはすごくもったいないなと思ったので、フェムト自身の知名度を上げるために勉強会を開催して、そこで講師をやったりして、「フェムト」の価値を上げることをできればいいなと思ってやっております。
磯崎 そうですね。坂本さんは、そうした戦略的な提案をして、いろいろやっていただいているので、非常に助かってます!
では、キャピタリスト業務には、どんな魅力、醍醐味を感じてますか?
これまでの経験を総動員してキャピタリスト業務に取り組む
坂本 CFO業務との差分で言うと、CFOは一社に集中する業務なんですが、キャピタリスト業務は年に数十社を拝見するので、知的好奇心的に自分の志向にマッチしてると思います。
また、リスクの取り方も異なってます。
スタートアップのCFOは成功した時のリターンは大きいけど、戦いの最前線なのでHARD THINGSも多い。キャピタリスト業務はアップサイドの可能性は残したまま、いろんなスタートアップに関わらせてもらうことができます。今までFAS(Financial Advisory Service)とCFOをやってきましたが、両方のいいとこ取りだなみたいな感じです。
磯崎 フェムトの中では色々具体的な仕事をしていただいてるんですけど、投資先については、CFO時代に比べて「手触り感」がなくなっちゃって寂しいとか、直接自分が手を下せないのが隔靴掻痒感がある、といったことはないですか?
坂本 投資先の経営者のみなさんにアドバイス差し上げると、感謝の言葉をいただけるっていうのはあるので、そこに対して不満というか、欠乏症みたいなのはないです!
投資方針がブレない
磯崎 それはよかったです。「フェムトの良さ」については、どう感じてますか?
坂本 今まで蓄積されたファンドのパフォーマンスでも日本トップの実績や、それに基づくブランド力など、ですね。
あと、投資方針が全然ぶれてないところ、です。私がCFOとして一番初めにスタートアップ業界に飛び込んで接した時のフェムトと、「いかにメガベンチャーをつくるか?」という、立ち振る舞いが全く変わってません。
磯崎さんをはじめフェムトのメンバーと話していて貫かれている思想は、「いかに企業価値を大きくするか」「そのために適切な中長期の適切なインセンティブ設計はどうあるべきか」だと思うんですよね。
「おっしゃることはごもっともです」というアドバイスをしてくれるVCの人も多いのですが、例えばそのスタートアップが対象とする市場がどうなっているか、というのは、そのスタートアップのほうがベンチャーキャピタリストより詳しくなければならないはずです。
だから、私がCFOをやった時には、本業について「こうしたら?」というアドバイスよりは、企業を成長させるための経営メンバーの採用だったり、いい組織作りだったり、どういうインセンティブ作りをするかみたいなところについてのフェムトのアドバイスの方が、刺さってました。
磯崎 VCの収益はキャピタルゲインから生まれるし、キャピタルゲインは企業価値が上がるから生まれるので、企業価値を上げるというのは、VCとして「当たり前 of 当たり前」のことですけどね。
坂本 実際は、企業価値を上げるためのアドバイスまで出来ているVCの人はそこまで多くないと思います。
磯崎 ではフェムトの「課題」についてはどうお考えですか?
坂本 VC業界は競争も激しくて、移ろいも激しいじゃないですか。新しいVCもどんどんできてますし、トレンドも変わっていくので、コアバリューはきちっと定めながらも、そうした最新のトレンドとかにもタッチしていくことが必要ではないかと思います。
磯崎 ありがとうございます。では、坂本さんが今後どういうキャピタリストになっていきたいとか、今後の抱負みたいなのはいかがですか?
坂本 キャピタリストは、やはりファンドレイズをして、投資をして回収するっていうのが1つのサイクルなので、まずそれを一回まわしてみたいです。
私は今でも兼業農家で、年に何回か和歌山に帰って畑仕事をしているのですが、種を植えてから収穫まで時間がかかる、という比喩で「桃栗三年 柿八年」という諺がありまして、これまでのキャリアの集大成として腰を据えて気長にやろうかなと思っています。
その上で、私の強みは、スタートアップで経営者やってきて、数多くの失敗もしているというところだと思うので、それをスタートアップのみなさんにシェアしていきたい。
スタートアップってチャレンジをするので必ず失敗もします。むしろ、失敗できるようにするためにエクイティで調達をするわけですが、もちろん無駄に失敗をする必要はない。私が失敗した話も含めて、どんどんスタートアップのみなさんにアドバイス差し上げたいなと思いますね。
自立的に動けて、プレースタイルを確立したい方求ム
磯崎 最後に、フェムトの人材採用で求める人物像はいかがでしょう?
坂本 現在のフェムトのコアバリュー・強みはファイナンスだと思いますが、もちろんそれだけだと足りないので、テクノロジーや産業の知識、ミドル・バックオフィスまで含めて、いろんな領域の能力が必要だと思います。
従業員何百人で同種の人が何人もいる組織ではなく、一人一人の芸風が違う組織なので、そうした次の何かを自分で模索して、プレースタイルまで確立できる人がいいのかなと思ってます。
磯崎 ありがとうございました!最後に、連載の件、宣伝したらどうでしょうか?
「起業のコーポレート業務」連載開始
坂本 では、お言葉に甘えまして。フェムトマガジンにて、「起業のコーポレート業務」の連載を開始します!
スタートアップ関係者は是非、ご覧下さい~。