週刊isologue(第23号)「紙メディアの無い世界」の覇者は誰か?(前編)

今週と次週の有料メルマガ「週刊isologue」は、「紙メディアの未来」のお話です。

今週は、近未来の紙メディアがどうなるのかを考察する前提として、日本の新聞社、特に、先週半期決算が報告されたばかりの日本経済新聞社の決算と、出版大手3社、集英社・講談社・小学館の業績の「厳しい」現状について、見てみたいと思います。 

世界中で、新聞社の業績の悪化が伝えられています。また、出版社の業績もよくありません。テレビやラジオなど電波のメディアも調子は良く無いですが、「紙」のメディアも衰退の危機にさらされています。

2年前に「紙メディアが無くなる」なんて言ったら、「お前はパソコンばっかり使ってるからそういう妄想に取り付かれるのであって、実際には紙が好きな人の方が多いんだから、紙メディアがなくなるわけないじゃないか」と「オタク扱い」されたもんでした。

しかし、最近の都会では、電車の中で新聞・雑誌・書籍を読んでいる人を、ほとんど見かけなくなってきたのではないかと思います。代わって今や、電車の中や鉄道のホームは、携帯電話、PSP、Nintendo DS、iPhoneといった「ガジェット」の画面を見つめる人であふれています。

さらに、アメリカでは、携帯電話のような小さい画面ではなく、もっと画面が大きく新聞や雑誌・書籍を読むのに適した「電子ブック」も姿を見せ始めています。ECのアマゾンが「キンドル(Kindle)」を発売し、ソニーも電子ブックの新機種の構想を発表しました。

またアップルのiPhoneでは、既に各種の新聞や書籍が読めるサービスが利用できますが、9月以降に、より画面の大きな「タブレット」の新製品が発表されると噂されています。

 

中世に「紙」というメディアが生まれ、グーテンベルクが1445年頃に活版印刷技術を発明して以来、つい最近まで数百年間の間、人間の社会は情報のやりとりを「紙」に大きく依存してきました。

確かに紙は、安価で携帯性にも優れています。しかし一方で、コンピュータやインターネットが発達した今、紙のデメリットも目立って来ました。

紙媒体はまず、インタラクティブではありません。

携帯のメールやゲーム等に惹き付けられるのは、利用者のアクションに合わせて「反応」が返って来るところではないかと思います。

もう少しカッコよくネット系の言い方をすると、そこには単なる「情報」ではなく「エクスペリエンス」があるわけです。

会ったこともない教養あふれる知識人が書いた文章よりも、知り合いから来た他愛も無いメールを読んだり知り合いの日記にコメントする方が、一般の人を引きつけるということかも知れません。

また、紙は、タイムリー性がありません。

一度印刷すると変更がききませんので、印刷する前の編集に時間をかける必要があるし、それを印刷して、物理的に配送しなければならないわけです。

コスト上も紙は不利です。

インターネットでは、新聞1部程度の情報を世界のどこに送っても、今やほとんどコストはかからなくなっています。ところが、紙だと送るのに費用がかかるわけです。

経営の観点から考えてみても、紙は大変です。

ネットではほとんどコストをかけずに情報が送れるため、ネットで情報を配信するのはあまりマネジメントのスキルが無くてもできてしまう場合も多い。しかし、紙という媒体を利用する場合はそうもいきません。

見込み生産をしなければならず、「在庫」も発生しますし、「返品」のリスクもあるのに加えて、物を出荷したり入金したりといったタイミングが大きくズレてくるため、資金繰り、在庫管理、棚卸し、万引き防止など、経営管理のノウハウを持っていることが重要になってきます。

また、特に、新聞のように、短い時間に極めて大量の家庭や職場に速報性のある情報を届けなければいけないものの場合、印刷設備の投資も巨額になります。

今やブログのサービスを利用すれば、誰でも情報が発信できるのに対し、新聞業を営むのには、資金的にも経営ノウハウ的にも極めて大きな参入障壁が存在しているわけです。

加えて「エコ」が叫ばれる昨今、原料に大量の木材を必要とする紙は、肩身が狭くなりつつあります。新聞・雑誌は1部・1冊なら携帯性に優れていますが、たくさん溜まると非常に重くなり、高齢化する社会では運んだりゴミに出したりするのも一苦労な存在になってしまっています。

こうなると、10年後20年後に、世の中で「紙」というメディアが使われているのかどうか、大きな疑問がでてきます。

さらに、2年前には現在のように紙メディアが凋落する姿は予想できなかった人が大半でしょうから、もしかしたら、10年20年と言わず、わずか2年後くらいには、「紙の次のメディア」の姿が誰の目にも明らかになっているかも知れません。

このため、今回と次回では、こうした「ポスト”紙”」への変化がどのように進むのかを考えてみたいと思います。

もちろん「週刊isologue」ですので、CPUの性能がうんぬんという技術的観点というより、財務やビジネスモデルの切り口から、どういう「未来」が来るのかを考えてみたいと思います。

 

・・・・ということで、今週の目次&キーワードは、

大手新聞社財務状況の概要
日本経済新聞社の連結赤字転落
集英社・講談社・小学館の業績推移

等になります。

ご興味がありましたら、下記のリンクからご覧いただければ幸いです。

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